全全角

見た夢のメモとか起きてる時の寝言とか

前見た夢 おとしごの乙女

あらゆる厄災が降り注ぎ、ゾンビや化物がいる「厄災の空間」に人を連れ去る謎の集団がどこからともなく湧いてきた、1960年代くらいの世界。
そのうち人類には「おとしごの乙女」というのが生まれるようになって、その子は主に生家を守り、その集落の巫女のような存在になる。巫女が術を施すと、建物や一定条件の空間に安全が保証される。巫女には強さがあり、広い範囲で術を使える者より、狭い範囲でも強力な術が使える者の方が神格が高いとされた。ごく狭い範囲でも、「絶対安全」が保証される空間を作れる乙女の数は少ない。それが私の双子の妹だった。

私は記憶喪失のまま、厄災の空間に連れ去られた。大広間には沢山の人がいる。よく見ると人の大半はゾンビだ。気づいた人たちが命懸けで逃げる。大広間には沢山の扉がありそれぞれに逃げていくが、扉を誤るともっと強い魔物と戦うはめになる。扉の奥にまた沢山の扉があって、この空間は迷宮だという事が分かる。一箇所だけ必ず逃げ口があるというのがこの空間の条件で、諦めて死ぬ事は許されない。
ガラスの扉があり、向こう側はどしゃぶり雨の工場地帯になっている。基本的に液体は人を溶かすので、この扉は外に出られる事を装った罠だと人々は知っている。私は工場のベンチに誰かが座っているのを見た。新聞を読んでいる全身真っ黒の人だ。私はそれを見てなぜかその扉を開けた。雨が自分を打つが、冷たいだけだ。この扉が当たりだった。
全身真っ黒の人は、黒スーツにハットを被った普通の人だった。どしゃぶりの中で新聞を読んでるのは異常だが、厄災に巻き込まれた世界の端の方はこういった風に挙動が異常なので気にしなかった。よく見るとほかにも人がいるが全員黒スーツにハットだった。
逃げられた事が誤算なのか、誰かが私を追ってくる。厄災の空間を作った集団の一人らしい。私は記憶にあった見知った日本の土地まで逃げてくると、あとは誘い出すように敵を誘導しながら逃げた。そして木の枝等で装飾された、畑のある一角に滑り込み足を止めた。敵は木の枝を振り払い私を捕まえようとするが、私に手が届かない。ここはおとしごの巫女に作ってもらった、私だけが知っている「絶対安全」の空間だった。敵は厄災の空間から長時間出ていられない事を知っている。しばらくやり過ごせば自分の勝ちだ。敵は怒り狂うと思ったが、感心したように木の枝や葉を触りながら、落ち着いた様子で私に語りかけてきた。
「これが巫女の空間か。大した巫女だ」
「ここは絶対安全だ。お前は帰れ」
「そうか。悔しいな。お前はこれからどうするんだ」
お前の知ったことでは無いと言いたいが、記憶喪失で一人でいるのに耐えられず、返事をする。
「私は生まれた集落や行ったことのある場所の記憶はあるが、生い立ちや自分に関する人たちの記憶がない。それを取り戻さないと何をすればいいのか分からない」
「分かった。協力しよう」
ここで初めて敵の姿をちゃんと見た。20代後半の青年だ。私は青年と血縁関係がある事を強く感じ、青年の申し出を受けた。巫女の空間から出ると、青年は確かに私の生まれた集落への道案内をした。途中、通りを歩く女学生が「おとしご様だ」と黄色い声を上げる。すれ違う麗しい乙女は、女学生たちとは違う、独特の衣装を着て柔らかく微笑んでいる。
青年は集落の角にある大きな屋敷の敷地へ入った。家の方ではなく、これもまた大きな物置の方に入っていった。斜陽がたっぷり入り込んで影が濃く、物置の全体がよく見えない。少し歩いてみると、学習机が二つ置いてある。青年が勝手に開けてみていいというので私は一番上の段から開けて細かに観察する。女児向けアニメの主人公二人(スイプリの響と奏)のスイングキーホルダーがそれぞれの机に入っていた。
私は呆然とそれを見ていたが、ふと、この倉庫は安全なのだろうかと気になった。
「ここはかなり安全だよ。」
青年が言う。私は探索を一旦やめて当たりを見ると、使われなくなったらしい軽トラックの荷台のあたりに誰かがいるのが分かる。その誰かが声をかけてくる。「よう、忘れ物か××。」この「誰か」の名前を思い出した。「坂本龍馬」だ。この名前は何故か彼が自分をそう名乗っているだけで、本名は違う。本名は思い出せないが、この人は私の初恋の人だ。坂本龍馬のイメージらしい、むさ苦しい風体をしている。
坂本が青年を気にしていない所を見ると、やはり青年も倉庫に出入りして問題ない、縁のある人物だと分かる。青年が言う。「この物置に術をかけた者とは違うが、彼もおとしごの巫女だよ」
おとしごの巫女とは、神仏に仕える巫女のような「処女」がなるものでは無く、生まれついてそうなるものだと知る。青年と坂本の会話をぼーっとして聞く。先ほどすれ違った、巫女のイメージにピッタリな麗しい「おとしご様」はこの辺りでは相当の神格らしい。妹がいなくなってから彼女がこの領を守っている事、坂本は巫女の使命をまっとうせずあちこちほっつき歩いている事、実はそれは私の妹を探しているからだという事を知る。妹の消息は全く知れないらしく、青年は無表情に残念だ、と言って会話が終わった。
その後は麗し巫女ちゃんの私に対する優越感と私の妹に対する劣等感の何らかのバトルや青年の素性や坂本の本領発揮など色々あったけど忘れた。